匠の宿 山懐からの手紙

どこからも遠く、だからこそめぐり遭える「湯」と「自然」と「人」。山懐で癒しの宿を守り続ける番人達からの手紙

確かにこの風呂はいいかも知れない
この季節もいいが、さっき言っていた「雪」の季節に
興味が沸く。


20070617192617.jpg


20070617192654.jpg     20070617193557.jpg   20070617193659.jpg


部屋はそれほど広さは感じないが、日本人に適した適度な空間である
当然、一人で使うには広すぎる空間なのだが。


うむ、そう考えると、昔の殿様などもそれほど広い空間で過ごしてはいない
木造建築の限界もあるとは思うが、西洋の無駄に広い邸宅などとは違い
細かな部屋が数多くあるのが日本の家屋、かと思う
そうだ、この広さは日本人の「落ち着く空間」なのかもしれない。


20070614220127.jpg


「よし、この風呂は朝入ろう」
なにやら、強い決心をしている自分がいた


やはり温泉といえば「大浴場」である
手足を伸ばし、「ク〜」と言いながら入るのだ!
タオルなんか頭に乗せて、露天風呂なんかでは、うつぶせになって
風呂の淵に腕を乗せて、その腕にアゴを乗せて・・・
たぶん石であるはずなのだが、その腕を乗せるのに適した石があるはずなのだ!


さて泉質は・・・・
単純泉かぁ・・鉄分が多い・・かぁ
この温泉の泉質に関係があるのか?


そう、忘れてはいけない、私の目的は違う所にある


20070617202002.jpg


大浴場へと。                                   つづく


山懐の地より


 


 


 






これは?
これは温泉なのかな?

「はい、そうです!」


独り言に反応されるとかなり驚く!


「大浴場の溢れたお湯がここに流れこんでいるんですよ。」


なるほど、まるで大きな露天風呂のようですね・・・ 
と、面白味のない会話で返した自分に少し後悔する。


「まだお入りになったお客様はおりませんよ」(笑顔)


・・・・。


うまく返された、
それに対してまたも返せない・・・


20070614215635.jpg


そうか、ここに彼が言っていた奴がいるのか。
半信半疑のままにチェックインが進む。


館内案内を受け、まずは部屋にと行こう。


            20070614220242.jpg  ここは各棟に木の名が付いている
                             私の部屋は松の抄だそうだ


20070614215824.jpg  例の池のある母屋を中心に左右に各棟が分かれる。


糸巻きを使ったライト20070614220217.jpg 窓越しに霞となった池の湯気20070614220101.jpg


              木々を浮かび上げるライトは「雪」の為でもあると言っていたが
              どんな絵をみせるのだろうか・・・


20070614220149.jpg  部屋の鍵を開ける
本来、一人用の部屋があるらしいが、彼の計らいで通常の部屋を取ってくれた
私としては、一人専用の部屋で十分だからと何度か押し問答をしたが
結局この部屋となった。

「風呂がいいんだよ」


と、彼の言葉に少しだけ興味が沸いたからだ
本来、気を使われることが嫌いなのだ。
たぶん、彼もこの宿に無理を言い
宿も何とか配慮してくれたのだろう


しかも、しゃれた会話の出来ない私に
「この人は何者なのだろう?」 と きっと思っている
でもそんな良い風呂なら と お言葉に甘えた。


20070614215752.jpg
                                          20070614220127.jpg







・・・・・・・・・!


                                     つづく


 


山懐の地より



近づくにつれ、ぼやけた館にピントが合う


20070605000849.jpg


故意に照らされた木は 遠近感をより複雑にし 生き物である事を 
改めて感じさせる。


                         20070605001920.jpg    


数段の階段を上がり 入り口へ
なぜか息が上がる、それほどの距離を歩いたわけではないのだが
体が空気を求めている

まるで小走りしてきたように、息を切らして最後の1段を上がる
自動扉が音もなく 左右に開く

「お疲れさまでした、こちらで お足元を お預かりいたします」

下足番だ、新しい建物に下足番?
老舗旅館ならまだしも、下足番がいる事に少し驚いた

脱いだ靴をもう一方の脱ごうとした足で蹴飛ばし 片方の靴が横に立つ
いわゆる、明日天気になーれの 曇り 状態である。
あわてて直そうとすると、若い下足番に制される

「そのままで結構です、恐れ入ります」


普段慣れない自分の仕草に ぎこちない動きとなる

気を取り直し 「お世話になります」 と カウンターに向かう
一枚板の白木のカウンターだ 
                                 20070610010619.jpg


 


名を告げようとした時
「こちらにどうぞ」 と 若い女性スタッフにまたもや制される。


20070610011630.jpg


ライトアップされた新緑の木々を望む 窓際の椅子に 誘導された。
窓の向こうには 霞?
よく見ると水面を這うように 霧が揺らぐ


              20070610012011.jpg


   これは???


                                        つづく


 


山懐の地より

そもそも私がここに来たのは、変な話を聞いたからだ。
最初は 「ふん」 と鼻で笑っていたのだが、彼の目はマジだった。
「ふん」と笑われた事に、切なそうな目で私を見つめた


日が伸びたとはいえ、山々に囲まれたこの地は太陽が早く隠れる
沈んだのではない、山が隠したのだ
太陽は邪魔をする山々に負けじと光をぶつける
そしてその光は屈折し見たことの無い色を放つ
歩けない、立ちつくす。
「みとれる」 とはこの事なんだと ガッテン した。


20070605003002.jpg


はっと我に返り、前を見据える。


門をくぐると、一直線に続く道、そしてその先に灯る明かり
直線にして100メートルはあるだろうか
ボヤケて浮かぶ館。
しまった、車に眼鏡を忘れてきてしまった。


そもそも運転する時にしか眼鏡を掛けないのだが
その館の全貌が気になる。
目を細めながら足を進める


20070605001256.jpg


 この場所には 奴がいる 
 彼の話していた奴がいる  
 この景色はそう確信させた。


                                                        つづく


山懐の地より  
  


 

松本インターを降り、上高地に向い車を走らせる。 
道は少しづつ山に向かい、景色は人の気配を無くしてゆく
直線だった道は、次第に蛇行を始め、奥へ奥へと吸い込まれるように進む


山はV字に渓谷を刻み、木々は崖にしがみつくように茂る
所々地肌を露にし、鋭くとがった岩が今にも転がり出しそうである。
この絶妙なバランスは、神の仕業としか言い様がない。


左にカーブを取るたび、一瞬、右下にエメラルド色の川が見える
きらめく水面を凝視したい衝動に駆られるが、道はそれを許さない
まして、車を止めるようなスペースもなく、気持ちの中にイラつきを残す。


やがてトンネルの群。
新緑の色と暗く灰色の壁面が交互に連なる。
しかし、このトンネルは何年前に作られたのだろうか?
ゴツゴツと、いや、クネクネと波打った壁面や天井は決して近年の工法では無い
そして道幅だ。
昭和の頃、そう私が子供の頃に目を光らせて眺めていた車達。極まれに見かける時があるが
今の軽自動車ほどの大きさに驚いた。そう考えるとこのトンネルはそんな時代の車に合わせて
作られたのだろう。


何か分からないが、そんな風景にワクワクしながら車を走らせる。
そのワクワクの隙間に入りこむ後悔と落胆。
もしかすると、あのコンビ二が最後のコンビ二だったのかも知れない
あの時、快適に進む車を止める気にならず、まだこの先にもあるだろう
と、日々慣れた感覚の油断が今の後悔につながっている。


自分はいつもそうやって先送りにして、必ず後悔をしている
もし、あそこで止まっていたら、今この風景の中で冷たい缶コーヒーを飲み
気持ちよく走っていたことだろう。
悔やまれる。


少し不機嫌になりながら急なカーブを回ると突然、今までになかった近代工法の
まるで高速を走っているかのようなトンネルが口を開ける。
安房トンネルだ、このトンネルを抜けると平湯温泉である。


750円、高い。
でも、この山奥にこんなトンネルを作ったのだ、仕方あるまい。
あの渋滞ばかりの首都高速に比べれば、価値は充分ある
冷静に考えれば考える程、納得出来る。

昔、黒部ダム建設の記録映画を見たことがあるが、ここも雪や岩盤、地下水などに
阻まれ、苦労して出来たんだろう、事故なんかもあったんだよきっと。


750円を払い、ほんの数十メートル走る間にそんな事を考えた。
考えていたので、曲がる道を直進している事に気付いた。
自動料金所を過ぎ次の交差点を右に曲がるのだ、次の交差点と言っても
次の次の交差点は見当たらない。そうだ、唯一ある交差点を右折するのだ。


平湯温泉。全貌は分からないが、こじんまりとして風情のある温泉街だ
最近、温泉街を下駄で歩く姿を見なくなった。
おそらくこの温泉もそうなのだろう。


いくつかの温泉宿を左右に見ながら進む
最後の宿を越えると緑が急に開ける


そして・・・・・


20070603201650.jpg





つづく


山懐の地より